LIVE TIME REPORT

 初めてのフェス――いや、会議=ミーティングの最後の日がやってきた。この日はここ最近の中ではダントツの快晴を空が浮かべ、音楽に微笑みかけているような最高の光が射す中、ぞくぞくとオーディエンスが会場に駆けつけることとなった。
 開演前、楽屋ではBank Band Trinityのみんながリラックスした表情を浮かべながら待機している。DJのajapaiが小さな機材をいじくっているんで直前にイヤーモニターの調整でもしているのかなと話かけると、「いや、単に携帯の充電をチェックしてたんですよ」とのこと。何というか、万時がこんな調子でふわんとした空気のままバンドはライヴの開始を待っていた。夏のap fesのBank Bandのキーマンである亀田誠治が小林武史の下に訪問し、何やら楽しそうに話しこんでいる。
「今日はね、夏に向けて、音楽のシャワーを浴びるために来たんです(笑)」と語りながら、亀田はこの日ずっと楽しそうに大きなリアクションを取りながら会議を楽しんでいた。

 この日のゲスト・アクトはバンドではなくソロ・アーティスト2組。まずはタカチャが先陣切って登場した。独特のハートウォーミングな世界が、ソールドアウトで膨れ上がった2500人を包み込み、最初っからオーディエンスの両手が右に左に揺れている。レゲエでもあり、ポップスでもあり、ソウルでもある彼の奔放なスタイルは、とてもリスナーフレンドリーで出てくるサウンドがすべて「丸い」。何かを、大切な人を、信じきる強さを柔らかく歌うタカチャの音楽は、多くの人の心の中にボブ・マーリーを浮かび上がらせたのではないだろうか。「隣にいるから」、「約束するから」、「信じるから」というリリックは誰でも書けるが、そのリリックを確実に心に届けるのは難しい。そんなことをわかっていながら、リスナーを信用する穏やかな視線で「信頼」を唱えるタカチャは、1MC 1DJという最小単位のアクトでこの日のイベントに安心感と一体感を解き放った。

「今日は、お客さんのヴァイブスが東京環境会議っていう目標にちゃんと向かっているんだなぁと感じました。ド頭からお客さんがすでにひとつにまとまっていて。たくさんアーティストさんが出るイベントって、『この人は興味ない』とかになりがちじゃないっすか。でも、今日はすべてを受け入れてくれていた気がしましたね。だから僕自身もその中のひとりになれたような、そんな気がしました」
◆全曲がボブ・マーリィの“No Woman, No Cry”を聴いているような気分になるライヴだったんですが、心の中で大切な何かや差別や弱者に対して気持ちを込めて届けたいというふうに思いながら歌っていたりしましたか?
「2007年のテーマは『愛』なんです。デビュー3年目にしてようやく自分の中でも、自分の声やキャラクターがわかってきて。そうなった時に、もっと求めて行かなきゃいけないものは何だろう?って考えたら、『愛』が浮かんだんです。で、それを意識して曲を作るようになって、そうしたら自分で聴いても温かさや愛の感じが今までとは違うなぁって思って。……1曲目は新曲で、初めて歌ったんです。でも、今回のテーマと上手くリンクしたので、凄く歌いやすかったですね」
◆タカチャにとって環境って何ですか?
「僕は高校中退して親元離れて上京したんですけど、つまり環境がよかった状態から悪い状態へと身を移したんですよ。なんでそうしたかって言うと、やっぱり環境が自分を変えると思うんです。いい環境が自分を甘やかしたり、悪い環境が自分を強く育てたりすると思う。ただ、環境危機っていうのはまた別の問題ですよね。自分達が甘えていた分がツケとして出てるのかなぁと。もっと真剣にならないといけないなぁと思っています」

タカチャ
1 となりにいるから
2 ツヨガリ
3 ソノサキニ

 もう一組のゲストはTERIYAKI BOYZや風の人でもお馴染みな、先日ソロ・デビューを果たしたWISE。「いい天気か!?」と、景気のいい100%YES!なアンサーを求めるライムをフロアに落としながら登場したWISEは、コール&レスポンスを小気味よく挟みながらパーティーを温めていった。ヒップホップの中にあるポップとクールのバランスを、野性のカンで嗅ぎ分けるWISEのパフォーマンスに自然と引き込まれるオーディエンスも多く、だんだんパンチが強くなっていく曲の展開の中でフロアは色めきだっていった。
 途中、最近自分が引越しをしたというエピソードの中で「家が汚いと気持ちがすさむじゃないですか。地球も家と同じで、汚れると僕ら自身がすさむと思うんですよ。だから、綺麗であるほうがいいはずだから、自分がすっきりするために綺麗にしましょう」とMCをし、オーディエンスの首を縦に振らしていたWISEは、自然体でラップしながら「地球がマイペースでいられることが、自分のマイペースを守るんだ」ということを教えてくれているようだった。

「楽しかったです。環境会議っていう名目の集まりですけど、いいライヴがやれて音楽でみんなでひとつになれるのはやっぱいい感じだなって思いました」
◆こんな昼間っからやることってあんまないでしょ?(笑)。
「そうっすね(笑)。結構、夜派なので。別に昼だからじゃないけど、みんなの顔を見渡すことができて、じっくり聴いてくれてるなぁって思って、嬉しかったです」
◆WISEにとっての環境って何ですか?
「一番最初は身近なところ、本当に自分の部屋から始まると思います。それは全部に繋がっていて、地球にも繋がっている。だから部屋が日常的に綺麗になっていたら、その周りのことも全部気が遣えるようになって行くのかなぁと思います」
◆では、欲望って何ですか?
「欲望……南の島で美女に囲まれお酒飲むのが、かなり楽しそうっすね(笑)」

WISE
1 It makes me want to say
2 火の鳥
3 Shine like a star
4 Thinking of you

 転換の映像が流れた後、いよいよBank Band Trinityのライヴが始まった。
 夏のap bank fesでもそうだが、ap bankのマスコット的な存在であり、特攻隊長でもあるGAKU-MC。「一番ファンキーな会議室へようこそ!」というGAKUのMCが号令代わりとなり、いよいよ2800人のスイッチが完全に押された。フュージョン性の高いバンドの演奏と、フロアの調子を様子見しながら手を換え品を換え気の利いたライムをドロップしていくGAKUのパフォーマンス。いろいろなセッションの経験を持つ素晴らしいプレイヤーと、数え切れないほどのクラブでのフリーセッションをこなしてきたMCによる、熟練だけが生み出せる地に足の着いたピュアネスが、容赦なくフロアに浴びせかけられた。GAKU-MCの素晴らしさはクラブというアンダーグラウンドに「青空」を描き出し、逆にポップで一般的なフィールドにアンダーグラウンドなる精神論や本音をしなやかに注入するところにある。彼の姿勢の潔さと素晴らしさに触れられる快感が多くの人の体を駆け抜ける――そんな時間があっという間に過ぎていった。

GAKU-MC
1 昨日のNO.明日のYES
2 メルシーテレメカシーアリガトオブリガード
3 挙手

「実は彼女はMr.Childrenの桜井君から勧められて聴いたアーティストですが――」という小林武史の紹介で登場したのは、3日間続けてパフォーマンスを繰り広げた絢香。奔放なる音楽愛を胸いっぱいに広げて歌う彼女は、今回のAP BANG!のディーヴァの座を射止めることになったわけだが、その突破力をいかんなく発揮するライヴをこの日も行った。筆者の横で観ていたカップルは――。
女性「いいなー、絢香みたいになりたいなー。絢香にあやかりたいなー」
男性「あやかれそーな感じに見えるところがかっけーよな。さりげなく歌もむちゃくちゃうめーしな」
という会話をしていたが、それがそのまま彼女のポジションを表していたと思う。個人的に環境=エコロジーとは、人の心のエネルギーの純潔さがものを言う世界だと思っているのだが、絢香のエネルギーの透明感は、まさにこのイベントの「願い」を体現していた。「このイベントに出ることによって初めて知ることがあって、そのひとつは『ありがとう』の気持ちだったりもするんです。何かを知ることによって始まることがたくさんあって……ありがとうございました」というMCの後で“三日月”を歌い上げ、そして絢香は初日に続いて再び、一人の男を迎え入れることになった――。

「このイベントに参加すること自体、もの凄く楽しみにしてきたんです。普段はなかなか一緒にできない小林武史さんだったりGAKU MCさんだったりと一緒にできることを、もの凄く楽しみにしてきました」
◆“三日月”が絢香だと思っている人にとっては、こんなにはっちゃけたシンガーだということは新鮮に映ったと思うんです。そういう意味でもいい機会になりましたよね。
「そうですね。自分のファンの人達はわかってくれてるんですけど、イベントってそこが難しいですよね。でも、このイベントに来ている人達は凄くこのイベント自体を楽しみにきてるって感じじゃないですか。どのアーティストに対しても『音楽を楽しむ』というスタンスで観てくれていて、凄く楽しめました」
◆“あしあと”、いい曲ですね。歌詞で悩んだりしたことはありました?
「小林さんから曲を貰って、1時間くらいで歌詞を書けたんです。凄かったんです、そのメロディから貰うものと、イベントに対する自分の想いが一致して。環境問題の横には自分の家族がいて家があってっていう、そういう自分達の目線で書けたらなぁと、環境を守る=自分の愛する人を守るっていうことを書きたくて、書きました」
◆絢香さんにとって「環境」って何ですか?
「生きるためのものですね。音楽も自分にとっては生きるためのものなんですけど、環境がなければ歌うこともできない」

絢香
1 ライラライ
2 peace lovein people
3 三日月

 絢香に招き入れられたのは、Here Comes The AP Boy……GAKU-MC。それもこれもは、ある意味今年のAP BANG!オフィシャル・ソング(そう、まるで夏のap fesの“to U”のように)となった“あしあと”のセッションのためである。開催のわずか2週間ほど前に急遽やることが決まったコラボレート・ソングは、小林武史が作曲した曲にふたりがこのイベントを念頭においた歌詞をつけることによって実現した。そもそも会ったこともないふたりが、メールでもなく「手紙」で歌詞を交換し合い、作られた1曲。サビの絢香の印象的なメロディーへたどり着くまでの、GAKU-MCの献身的なるサポートとしての淡々としたラップ。ラップと歌が支え合うメロディ、ふたりのアーティストがお互いの表現性を守り合うリリック、という構造が明確になった名曲が、このイベントのために生まれた。単純な話だが、名曲が生まれるというのは他に変え難い貴重な機会である。それだけでも、今年のAP BANG!の意義は大きかったと言えよう。オーディエンスが聴き入る姿からも、その意識の大きさが感じられたのは言うまでもない。

GAKU-MC×絢香
1 あしあと

「自分が知ったのは、まだ彼女が12歳ほどのときだったんですが、天才少女現る!という感じで凄い印象的でした。今回、こうやって初めてコラボレートしてとても楽しかった」という小林の投げかけで登場したのは、Crystal Kay。フロアの人がぞぞっと前へ押し寄せる。よって1曲目から大歓声、そして「心から君が信じてるものは何ですか?」というあのサビを共に歌い合う者多数。歌い合うことで繋がることもあれば、気付くことや触発されることもある。音楽は感覚を刺激するもので、だからこそその刺激が少しでもよい形で有機的なものになれば、というのがこのイベント、いや、音楽が集まるすべてのイベントの本質的なメッセージである。その意味でステージの右から左へ大きなビートに乗せて歩きながら、微笑んで唄うCrystal Kayのアクションは、それ自体が「レゾナンス=連鎖」をオーディエンスに求める幸福なる投げかけだった。
 この辺りから、Bank Band Trinityの多様なアレンジ力とグルーヴ力が露になってきた。そもそもMr.Childrenやsalyu、そしてCHARAらとのコラボレートでもわかる通り、小林のピアノが奏でる「歌声」とのハーモニーは数々の奇跡を生み出してきたものである。そのピアノがそれぞれの個性を持ったヴォーカルと溶け合う中、多様な反射神経を持つバンドは時に弾け合ったり、ぶつかり合ったりしながら、独特の刺激を演出していた。今回のバンドは、ヒップホップやR&Bがメインストリームを務めたこのイベントのために作られた「グルーヴ・バンド」である。多様な音楽がカルチャーを従えながら今の時代感の中で衝突して出来上がったヒップホップなどを演じるためには、バンド自体の多様性が必然的に求められるのだが、Bank Band Trinityはそれを「わかっている」人たちが集まったバンドだった。彼らの「一期一会」的なる音と音の共鳴やぶつかり合いを楽しむだけで、この音楽的に贅沢なイベントのディナーを堪能することにもなったと感じた。

Crystal Kay
1 恋に落ちたら
2 きっと永遠に
3 こんな近くで

 音楽的にはインターミッション、イベントとしては背骨の部分である「環境と欲望」をスピーチするトークセッションが約30分行われた。江守正多博士、おちまさと、GAKU-MC、そして小林武史によるパネル・トークは、地球の温暖化などがステージ裏いっぱいに掲げられたヴィジョンによってわかりやすく解説された。印象に残ったのは、「環境を考えることを『我慢』だと間違って捉えている人が多い。そういう考えを払拭しないと何も始まらないし、環境を考えることは自分のための行動なんだとわかって欲しい。自分のためなら人は何だって楽しいはずだから」という江守博士のメッセージだった。

 いよいよ最終日の後半戦が始まった。
 まずは初日にヘッドライナーを、2日目はトップバッターを務め上げ、最終日はミドル部分であり後半戦の口火を切るポジションを任命されたKREVA。音楽的にも、人間的にも、「人生フュージョン」というべき多様性を誇るKREVAの真骨頂が、この日もすべて披露された。柔軟な、しかし芯が頑固なほどにはっきりして揺らがない彼の音楽への想いが詰められた“音色”から始まり、「自分が自分であれば大丈夫だから」と言わんとしている様な視線でフロアを見詰めながら歌うKREVAは、ヒップホップを超えたヒップホップをこの日も表していた。
 ヒップホップの本質はビートでもリリックでもない。ヒップホップの本質は、仲間という存在を意識し、それを音楽にすることである。だからこそヒップホップはアンダーグラウンドでありながら、いつの時代も徹底的に人懐っこい音楽であり続けている。KREVAは、リスナーを仲間にする達人であり、彼がポップ・アーティストなのはそんなヒップホップ・アティチュードに対して忠実な存在だからである。最早ラップするだけでなく、歌うことの素晴らしさをヒップホップへ投入し続けているKREVAだが、今回の東京環境会議の「多様なカルチャーや意識の交流を図る音楽ミーティング」という磁場を最も自然体で表していたのが彼だったのかもしれないし、それを知っていた小林武史だからこそ、KREVAに3日間の「キー」を渡したのかもしれない。ちなみに3日間、赤いパンツで演じきったKREVAだが、アンダーウエアはずっと「黒」だったという――。

「1日目はスチャダラとやれて、歴史的な瞬間を共にできてよかったなぁと。まぁBOSEくんの言葉を借りると『やっとくもんだよね』と(笑)。俺もカヴァーしといてよかったなぁとかいろんなこと含めて『やっとくもんだよね』と思った(笑)。凄く楽しかったですね。で、2日目は最初に出たんですけど……やっぱりGAKUさんはこのイベントの先発に向いてるなぁと思いました。このイベントはGAKUさんが出てくると始まるなぁと、そういうものになってるのが凄いなと思いました。だから俺はどちらかというと国歌斉唱みたいな(笑)、そういう感じでした。それで今日は……自分でテンションをコントロールしてステージ上で元気が出るようにしたので、それがよかったかなと思ってます」
◆夏のap fesよりも、このハコのほうがラッパーとしてホーム感覚があると思うし、bank bandも今回のようなフュージョン性が高い編成が肌に合ってるんじゃないかと思うんだけど。今回のほうがホーム感覚みたいなものが強かったりはしなかった?
「いやぁ……やっぱり呼んでもらってるって感じではありますよ」
◆いや、もうレギュラーよ。
「いやいや、まだまだっすよ(笑)」
◆とはいえ、3日間通してKREVAに出てもらうってことは、それなりのメッセージ性をKREVAに託している部分はあると思うんだよ。そこについてはどう思う?
「それは嬉しいっすね。元々あんまり使命感を持たない人間だと思うんで、使命感はないんですけど……小林さんが凄く信頼してくれてるっていうのは感じられて、それは凄く光栄だし。また呼んでもらえるんだったら是非出させてもらいたいと思ってます」
◆KREVAにとって欲望って何ですか?
「……………………『生』かな」

KREVA
1 音色
2 ひとりじゃないのよ
3 アグレッシ部

 次なるアーティストは、この日をもって復活を遂げる男だった。
 岡村靖幸。
 あー、岡村靖幸。
 この男がステージに現れるんだと、小林のMCで理解した瞬間のフロアの嗚咽にも似た嬌声……スタジオコーストというハコの木製のフロアは、あの時起こった地鳴りをきっと忘れないだろう。それぐらいの悲痛な熱狂に迎えられて、岡村靖幸はステージに登場した。ちなみにこの日はMr.ChildrenのドラマーであるJENが観に来ていたのだが、「凄い!凄い!! 空気が違う! とてつもなく大きなブラックホールが目の前に訪れたみたいで、凄い!!! こういう人をアーティストって言うんだよね」と筆者の肩を掴みながら話してくれた。言うまでもなく、すべてはJENの言う通りである。
 日本の本格的なファンク・ミュージックを80年代から90年代にかけて創造した岡村靖幸は、サウンド、リズム、グルーヴ、メロディ、恋愛、ダンス、そしてエンタテイメントに対して一切の妥協がない存在であり続けた。自分が弱いからこそ、音楽だけは強くありたいという願いが怨念の如く溢れたが故の圧倒的なるダンス・ミュージックやラヴ・バラッド……あぁ、今日もそんな岡村が描く奇跡のようなダンスやシャウトは、誰も超えられない「竜巻」として僕らに襲い掛かってきた。凄いという一言の凄さを表すために、今後は「とても」や「VERY」ではなく「岡村」という接頭語をつければいんじゃないかと思うほどの独自のアートを表す岡村に、フロアはパンクのモッシュよりも熱い涙交じりの熱狂でもって相対していた。
「帰ってきたぜ」、「めっちゃ楽しい」という叫びをふんだんに取り混ぜながら、往年の名曲を歌い舞う岡村に対し、「今回のいろいろなセッションの中で一番リハーサルに時間を使ったし、一番真面目に練習をしたであろう人が岡村君でした。最も呼びたかったアーティストは彼だったのかもしれません。………彼は、生きていました」という最大級の賛辞を浴びせた小林武史の想いは、フロアの想いを見事に代弁していたし、この日の復活を一番心待ちに、しかも不安に思っていた岡村自身へのエールとしても十分なものだったと思う。多くの人が泣きながら笑っていた。そして岡村は誰もが達し得ないレベルの高さで踊り、愛を唱え続けていた。
 終演後、多くのアーティストとの再会を牛丼を食べながら楽しんでいた岡村だったが、話を聞くと小林からの勧めでゴア元副大統領の映画『不都合な真実』を観に行ったり、温暖化や少子化に悩んだり、心を痛めることとそこからいろいろな思考を働かすことも多かったという。そういう想いを含めてこの日にこういうイベントで復活を遂げたのも運命だったのかもしれないし、オーディエンスにこんな熱気で迎えられたのも一重に「ラッキーでした」ということだと、熱弁してくれた。とても恥ずかしくて自分のコメントとしては伝えられないから筆者の文章として伝えて欲しいと願われたので、岡村の言葉をこのように記す。今後に向けてはこれから考えるが、まずは待ってくれた人達に対して最大限の感謝と、申し訳なさを伝えたいし、その気持ちを込めて次の展開を考えたいと話した岡村の瞳は、いつになく純粋で子供のような色を浮かべていた。

岡村靖幸
1 カルアミルク
2 アチチチ→聖書(メドレー)
3 あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう

 岡村のライヴが始まった頃、楽屋にシークレットゲストでありこの日の最後の1曲を唄う井上陽水が入った。しかし、岡村の復活ステージが終わり、シークレット・ヴォーカリスト3連発の荒技を披露する最初のヴォーカリストであるAIのライヴが始まった段階でも、まだその次のヴォーカリストがコーストに到着していなかった。楽屋裏では壮絶なアレンジメント対策が取り交わされ、とりあえず達した結論は「小林(武史)さんに、何でもいいから話を続けてもらい、MCで徹底的に時間を引き延ばそう」というものだった。
 そんなバックステージ事情はいざ知らず、今日も超絶パワーで一気に空間を自分のモノにしてしまうAIのライヴが始まった。「みんな元気〜!?」の一声で、いきなり空気を変える彼女のオーラとアーティストパワーは素晴らしいものがあったが、さらなる歌声の説得力が岡村とはまた異なる独自のソウルを破格なレベルで伝えていった。ブラック・ミュージックのディーヴァはいつも「ストリートの女神」であったが、AIはまさにそんな存在が日本にも生まれたことを伝えるディーヴァそのもので、この日もそんな女神が東京環境会議に降臨したことをソウル・ミュージックとして響かせてくれた。筆者の後ろのほうで一人の女性がこう、つぶやいていた「音楽に物差しはいらないよね」。こんな素敵な言葉を引き出す素敵なライヴを行ったBank Band TrinityとAIのセッションほど素敵なものは、この日この時間、世界中の中でなかったかもしれない。
 再びライヴの時間調整に話を戻すと、ことの深刻さが告げられた小林のMCは懸命な引き伸ばしを計ったが、一つ楽屋裏の狙いと異なったのは、そのMCにAIを巻き込んだことだった。もちろん、「話をしても私はソウルよ」なAIだからMCは爆発的に盛り上がり、「私、バク転できちゃいます」みたいなお笑い芸にまでトークは発展し、フロアの熱も高まったまま「小林武史とAIの漫談」というこの日このとき限りのセッションは賑わった。そしてそんな賑わいを見せている中、ようやく次なるヴォーカリストがコーストへ入ってきた。

「いつもの自分がしているライヴとはちょっと違う感じだったりしたんですが、小林さん達のバンドもこんな短い期間で私のCDをコピーするんじゃない、ライヴ用にアレンジした演奏を用意してくれて、リハの段階から嬉しかったんですよ。あとはやっぱり、今回のテーマ……私はあんまり環境については詳しく話せないけど、でも私の曲はそこと繋がっていると思ってるから……何かしなければいけないんじゃないかなっていう感覚は、普段持っている感覚もこのイベントも同じなんですよ。たぶん聴きにきてくれている人達も、このイベントに来てるっていうことはちゃんと(歌詞の意味まで)聴いてくれてるんだなぁって感じがした……それが他のイベントとは違うところかな。『とにかく楽しもうぜ!』みたいな、『歌詞を聴かなくてもいいよ、楽しんで!』みたいな場合もあるけど、でも今日は自分の歌詞の意味をちゃんと伝えることができたなぁって。それは嬉しかった」
◆最後のMCは時間を引き伸ばすの大変だなあと思いつつ、素晴らしいなぁと思ったんですけど。
「あ、それね、全然気付かなかったの! そういうことだったんだぁ(笑)。私はただ『喋っていいの?』って嬉しくて(笑)。全然伸ばして欲しいってことだとは思わずに楽しんじゃった(笑)」
◆AIさんの、すべてを楽しもうとしている姿勢にみんな凄く打たれていると思うんです。どうして自分は目の前にあることに対してポジティヴに向かって行けるんだと思いますか?
「聴いてる人の顔がそうさせるんだよね。いろんな顔が見えて……私が言ってることに反応している人の顔を見て感動しちゃうんです。だから思うのは、私は歌詞を書いてるんじゃなくて、書かされているんですよ。歌も、歌わせられてるんだと思う。もちろん好きだから自分で歌ってるんだけど、これをレコーディングして残そうって思うものは、やっぱりみんなからもらってるんだと思う。特に長いライヴになると、凄く楽しい気持ちになったり相手のこともわかってくるじゃないですか。だから帰りはお互いに寂しいし」
◆AIちゃん自身も寂しいんだよね。
「ほんっとうに寂しいよ! 帰りたくないって毎回思うもん。今もそう(笑)」

AI
1 BELIEVE
2 I WANNA KNOW
3 LIFE
4 STORY

 直前に入り、ほぼそのままの足でステージへ向かった第2のシークレット・ヴォーカリスト、それはENDLICHERI☆ENDLICHERIだった。どうしてそんなことになったのかの説明は、まずは彼自身のMCにお願いしよう。
「今、ずっとファンクなライヴをやっていて、今日もライヴを終えて、それからここに駆け付けることになりました。最初にお誘いを受けたときはスケジュールが(厳しくて)という対応を事務所がしようとしたので、『ちょっと待て』と。『無理すりゃ間に合うだろう』と話して、実現することができました。今回、何故お誘いを受けたんだろう、何故自分は東京環境会議に出るんだろう、と考えたことがあったんですが、そこで出た答えはシンプルで、『自分と小林さんの宇宙がぶつかり合うことを面白がる自分がいて、そこに縁を感じる自分がいた』ということなんです。今日のことは、今でも愛による縁が繋げてくれたと思ってます」
 そうなのだ、タイムスケジュールの遅れを覚悟の上で東京環境会議はENDLICHERI☆ENDLICHERIを招き入れ、そして実際に「予定通り」彼は遅れて入り、このステージとなったのだった。
 このセッションのみ、Bank Band Trinityのメンバーは小林を除いて一度引き下がり、ステージの上は背面いっぱいに映し出されたヴィジュアルと小林とENDLICHERI☆ENDLICHERIだけになった。よって音楽も10本の指によるピアノとひとつの喉から振り絞られる声のみのライヴとなり、その緊張感と生々しさ故に、フロアからは唾を飲み込むことすらためらう空気が7分弱もの間、ずっと流れていた。そして歌を引き立たせる小林のピアノという雲の上で、一度も目を開かずに春の歌を心の声を紡ぎ出す様に歌うENDLICHERI☆ENDLICHERIがいた。空気は止まっていたが、景色は心の中でずっと動いているような、大きな生命体の一生を観ているかのようなライヴだった。

「とにかく楽しかったです。自分にとってはまったく未知の世界だったから。小林さんのやられている聖地に入って、自分の魂を放つのみなんだけれども……一体僕はどういう使命があってやるのかとか、いろいろ考えたんですよ。でも、シンプルに、ここで出会った縁とのぶつかり合いを楽しもうと、それだけで行こうかなぁということで、やりました。だからリハーサルもほとんどやらなかったんですよ。今朝も1回だけリハーサルをやって、小林さんに『もう大丈夫だね?』って言われて、僕も『大丈夫です』と言って自分のライヴに向かって。それでギリギリ入って歌ったんですが……いろんな意味でドキドキしたけど、そのドキドキが音楽の中にあるっていうことは贅沢なことだし、とても必要なことだよなぁと思いながらステージに立ちました」
◆自分の声とピアノの音だけでやるということは、凄く緊張感がありますよね。
「なんか生きている感じがするっていうか。自分は生きているし、語りかけられているような気もするし。自分の宇宙がどんどん広がって行って、小林さんの宇宙と一体になれたような、そしてオーディエンスのみなさんの宇宙と一体になれたような気がして、凄く贅沢な何分間かを過ごさせてもらったなぁと、そんなふうに思いました」
◆環境って、自分にとって何ですか?
「僕の歌には水をテーマにしたものが多くあるんですが、人間はほとんど水でできているのに、乾いた心で人を愛するのはどうなんだろう?と。もっと潤った気持ちで人を愛したり、愛されたりするということを重要視したいなぁという気持ちはあります。捨てる/捨てないとか、使う/使わないとか、細かいことはやったりもしますけど……とにかく僕ができる範囲のことはやろうと思って生きてます。歌を歌うっていうことは電気を使ったりしなければならなくて、矛盾はあるんですが、でも先駆者というか、誰かが何かをやらなければいけないという使命がもしあるとするならば、僕は今そこにあてがっていただいているんだろうなぁという気がします。だから、今言ったような思いだったりエネルギーを持って音符に変えて放つということが、誰かのきっかけになって、1mmでも世界が動いて行くようになればいいなぁとただただ思っています。僕はきっかけでしかないから……」
◆でも、何かを放つことは重要だよね。
「うん、重要だと思います。ここはそういうことを率先してやっている場だと思うし。そこに声をかけていただいたので、足を運んでみました」

ENDLICHERI☆ENDLICHERI
1 ソメイヨシノ

 3日間の会議の最後を務める1曲と、一人のアーティストが「謹んで紹介いたします」という小林の紹介によって招かれた。
 井上陽水、その人である。
 そのとき、会場全体は祝福のどよめきを上げたが、そのどよめきは井上陽水的なるものを表したかったのか、とても低音による大きなどよめきとなった。
 最後のアクトは1曲のみで、しかもこの会議にとって決定的なるメッセージを表すものであった。わかってくれるだろう、“最後のニュース”である。世界中で起こっていること、そして本当のことが何なのかを知ろうとする僕ら、何が一番大切なのか? それはあなたに会いたい自分がいること――。すべての根本を、音楽の根本にあるものだけで綴っていくこの名曲が、この日ここで鳴り響くこと自体が真実だったと会場にいた人々全員が思っていたと思うし、その中には「幸せ」や「安心」だけでなく、何よりもの「怒り」があることが、井上陽水の圧巻の声色のみならず、会場全体のオーラからも伝わってくる意味あるエンディングとなった。ラヴソングは、音楽は、愛を歌うものであればあるほど、世界に対しての怒りが表されるんだという真理までもが響く名演を繰り広げた井上陽水、そして3日間通してより芯が強い楽団となったBank Band Trinityに感謝を捧げたい。

井上陽水
1 最後のニュース

小林武史 コメント
◆お疲れ様でした。3日間通してどうでしたか?
「(音楽やメッセージやもろもろの企画を)ひとつに束ねないで散らばらせても、ちゃんと行きましたね。これだけノンジャンルでフリーでイベントやっても、お客さんがそういう聴き方をできるようになってきている気もするし。やっぱり音楽って何がしかのメッセージを秘めてるものだと思うから。その意味で、音楽やエンタテインメントが果たすべき役割が明確になってきてるんじゃないですかね」
◆今回のイベントはフュージョンだったと思うんですよ。Bank Bandの音楽性だけでなく、イベントとしての多様性やオルタナティヴさ、摩擦も含めて、それがひとつのテーマだったと思うんです。だからこそ、パーティーの現場であるクラブに理屈を持ち込んだ。
「そうね(笑)」
◆音楽家自身ががそういう企画をやるってことが凄いなぁと思ったんですが。これは結構な挑戦だったと思うんですが、達成感はありましたか?
「まぁもっと違うやり方もできるだろうなと思うし、それは実際に考えてるしね。たとえば音楽の現場じゃないところに音楽がお邪魔して行くみたいなやり方もあるだろうしね。でもやっぱり……王道ではないけれど、こういう混ぜ方ってやるべきだよね。コラージュなんだよ。やらないと気付かないことに、今回はたくさん気付けたような感じがしてる」
◆またここから夏に向かって行くと?
「そうですね。夏のap fesにも今回のいい影響が出るといいかもしれないなと思います」

 頭の中がからっぽに、そして心に緑が潤うような残響感が巡っている中、多くを語らずに東京環境会議は閉まった。これだけ多くのことを語りかけた音楽の後で、出てくる言葉がなかったし、何より必要なかったから、言葉を残さずに会議は閉まったのだろう。
 終演後、楽屋でほぼすべてのアーティストが成功を祝しながら乾杯の盃を交わしていた。お約束のご挨拶や、乾杯の音頭などまったくない、誰もが勝手にグラスを持ち、話し、笑い合う無軌道なものだったが、ここには「大きな心のサークル」が描かれていた。この気持ちのサークルがセッションとなり、摩擦を起こし、怒りや問題意識を抱えて鳴り響く「あいのうた」となったことが伝わる、いたってシンプルで本質的な笑顔が集まった打ち上げだった。この余韻はきっと、また来年のここに集まり――――。

TEXT BY 鹿野 淳(FACT

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